最近、「高品質コア」という言葉を聞くことが多くなっています。インターネットで検索しても、それを
説明するホームページや文章も多く見かけます。
では、「高品質コア」とはどうゆうものを指すのでしょうか?
あるウェブサイトでは、「ボーリングコアの軟質部や細粒分の流出を抑制することによって、柱状のコア形状を伴ったボーリングコアを100%に近い状態で採取し、‥」と書かれています。しかし、これは採取されたコアの状態だけを見ているに過ぎません。また、高品質ボーリングに関する論文を見ても、ビットや工法に多少触れてはいますが、それは形式的で具体的な扱い方などは書かれていません(筆者がボーリング実務者ではないため)。これには、実際にボーリング作業を行う者にとって違和感を感じざるを得ません。そこにはまるで、映画を観たり小説を読んだりして、観客や読者が感情移入して、あたかも自分もその世界の登場人物になってしまうような錯覚をその筆者が起こしているのではないかとさえ思ってしまいます。
そこで、ここでは弊社なりの高品質ボーリング削孔時の考え方と高品質コアの定義をまとめてみることにしました。ただし、実際のボーリング作業は、準備から後片付けまでとても多くの手順やストーリーが繋がっていますので、ここに示すことはその中の削孔時の一部分だけの考え方と捉えてください。
先端のビットは一番の重要ポイントです。
乱さないコアをあげるために最も望ましいのは、コアに負荷を掛けず、振動も与えない事ですが、実際のボーリング掘削は先端に荷重を掛け、送水圧を掛け、チューブを回転させます。
そこで考えることは、如何に切れるビットを使用するかです。
以前はサーフェイスタイプのビットを多く使用していた時期もありました。確かに初めは切る能力を多く持っていますが、とても寿命が短いという欠点があります。場合によっては(地質によっては)1mしか使用していなくてもその能力が無くなってしまうこともあります(つまり非常に高価なものになってしまう)。ここ数年は、粉末ダイヤを焼結させたインプリダイヤが主流になって来ています。ところが、そのインプリの使い方が千差万別で会社やオペレーターによって随分と違いがあります。
例えばチャート等の珪質化した岩盤を掘削するのに、あるオペレーターは一日で数センチメートルしか掘れないということがありました。しかし、あるオペレーターは1~2m進み、また違うオペレーターは5m以上も進む‥。何故そのようなことが起きるのでしょうか?理由は簡単で、ボーリングの進捗はビットのマトリックスの硬軟だけで解決する問題ではないからです。もしマトリックスの硬軟で解決するなら、半世紀前には切れるビットの追求や課題は解決されていたでしょう。
このことから、“高品質コア”を採取するポイントは、如何にその地層に適した、あるいは一番切る能力の優れたビットを選択し用意できるか、さらには切れるインプリを現場で作れるか、という経験と技術に掛かっているのです。
せっかく切る能力の優れたビットを使用していても、リーマの選択によっては その能力を台無しにしてしまいます。
リーマの働きは大きく、孔径維持、孔曲り防止、バイブレーション発生の抑止等があります。
最近はダイヤであってもネオリーマと言うものもあるようですが、それはあくまでもネオであって決して本来のリーマではありません。少なくともテーパー形状でなければ、せっかく用意した優れたビットもリーマによってブレーキが掛けられてしまいます。先端のビットと、綺麗なアニュラス部を形成するリーマの選択は“高品質コア”の採取にとって必要不可欠です。
どれほどの口径や肉厚のパイプでも、長く繋げて回転させると必ず横軸方向に湾曲する部分が発生します。実際のボーリング現場ではよく起きる座屈の現象です。ある深度でロッドを回転させると、ロッドは地上でも直ぐに判るような振動を発生し、いくら精度の高いリーマを使用していても先端のビットにまでその振動は伝わります。その結果、採取したコア長の表面を指でなぞると若干波打っていることがあります。若干でも波打った表面があるということは、ビットの切る能力を最大限に上手く使っていないことになります。
それは“高品質コア”にとってはマイナスになります。このため、オペレーターにはバイブレーションを発生させないための技術や経験を持っていることがとても大切な要素となります。
ここ数年の間に、掘削水に混ぜる添加剤が多く出回るようになって来ています。その多くの性質は粘性や張力を増すものですが、その調査目的によって変えていく必要もあると考えます(場合によっては、分解性の高いモノを選択する等)。
掘削水の働きとしては大同小異であると思いますが、大きなポイントは如何に適正な水量と水圧を管理できるかです。例えばある水量で掘削していて水圧が変化した場合、原因は何なのか?もしかして、そこは漏水層であったり、湧水層であったり、または送水の循環過程のどこかで(多くの場合は先端やアニュラス部)水量が変化した等について一瞬で孔内の状況を判断します。場合によっては瞬時に対応しなければ取り返しのつかない事態になるかもしれません。そのためにも如何に適正な水量と水圧を管理できるか、あるいはその水管理のシステムをオペレーターが考えることができるかが重要になります。
また、掘削流体として、エアーを主体として使用する場合もあります。エアーは地表から地下水面までは有効な手段と考えます。しかし、地下水面以下でのエアーの使用は 調査目的によってはタブーとなります。それは地下水の動きに大きな変化をもたらすからです。例えばダム調査の場合、地下水面以下でエアーを使用するには、当然その深度より上部の水を吐き出す力が必要となります。仮に水位以下30mでそれを使用するには、掘削開始時に0.3MPa以上の圧力を加えなければなりません。その後(微小の限界圧を壊した後)、ルジオンテストを行うとどうなるでしょう?恐らく0.2~0.3MPaまでの上りはかなり直線的なPQ曲線を描くことになり、これは原地盤の透水性を示しているとは言えないのではないでしょうか?
また例えば、井戸や温泉の掘削は、如何に地下の情報を地上に反映させないかが大切です。漏水や湧水の情報が判った時点で、それ以深の掘削は難しくなります。地下水観測井を設置する場合、比重、粘性や逸水防止等の処置を施し、何枚もの砂やシルトや砂礫層を難透水層にして掘り進み、目的の地層に達してから仕上げパイプ等を挿入して、最後にエアーを送って孔内を洗浄します。その結果、難透水層であった筈の目的の地層は、場合によっては自噴する程の湧水層に激変します。地下水位以下に負圧を与えるということは、それ程地下水の動きを変えてしまうということなのです。
このように“高品質コア”と呼べるものを採取するには、地質の詳細な情報だけではなく、地下水など地下の状況について精度の高い情報を如何に得る技術を兼ね備えているかが必要であると思います。
以上、大まかに掘削時の道具や考えを纏めてみました。しかし、実際の作業ではケーシングの追い込み方、ケーシング内外のスライム処理の考え方、ケーシング以深のコアチューブの口切の仕方、コアチューブの長さやセジメントチューブ・マッドチューブの使い方など、ボーリング1孔を掘り終えるまでのストーリーを追及すると、相当に際限のない説明になってしまいます。本来ならこのような手順が理解できて初めて“高品質コア”というものを獲得できると思うのですが、この全てを知らなくても最低でも1~4のことが解決できていることが求められるはずです。
弊社では弊社なりの解決策を持っており、殆どの地層でコアチューブ内のコアがそれ以深の地層と繋がっているように掘削できるため、その地層を地上で再現できるようになっています。そこで初めて“高品質コア”と呼べる地盤情報が提供できると考えています。
以下に、弊社なりの“高品質コア“の考え方と定義を 図と文章で綴ってみました。
所定深度まで達したコアチューブはインナーチューブの中で不撹乱状態で下部の地層と繋がっている。
結局、インナーチューブの中では方位を有している事となる。
仮にそのまま方位を失わずに地上に持って来られると、透明アクリル等に挟み360°のコア観察ができる事となる。